- 2025.06.27
- コラム
建物の省エネ基準は、今後どうなるのか?
2025年4月、すべての新築建築物において「省エネ性能」が義務づけられました。大規模建築物は2017年、中規模建築物は2021年に省エネ基準が義務化されていましたが、2025年からは戸建住宅などの小規模な建築物を含むすべての新築建築物で省エネ性能が義務化されます。
また、 2025年4月、国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会は、2030年4月に住宅性能表示を変更する案を示しました。この案では、2025年4月の義務化基準を上回る性能が義務化ラインとなっています。それでは詳しく見ていきましょう。
そもそも建物の「省エネ性能」とは?
義務化された省エネ性能の基準は、建物の熱の出入りを表す断熱性能と、建物のエネルギー効率を表すエネルギー消費性能の2つです。
断熱性能は建物の「外皮(がいひ)」の性能で決まります。外皮の断熱性能が良いと、室内と室外の熱の出入りが少なくなり、冬は暖気を逃がしにくくなり、夏は外の熱気が伝わりにくくなります。
エネルギー消費性能は、建物の断熱性能+給湯・冷暖房などのエネルギーを使う設備の性能で決まります。高効率の機器を使うことで、お湯や暖気・冷気を作るのに使うエネルギーが少なくて済みます。
断熱性能とエネルギー消費性能の2つの性能を上げることで、建物で給湯・暖冷房に使われるエネルギーを少なくすることができるのです。
建物の省エネ基準の変遷
建物の省エネ基準の1つである断熱性能等級が初めて制定されたのは1980年、2025年の義務化水準となる断熱性能等級4相当の基準が制定されたのは1999年です。一次エネルギー消費性能は、2013年に初めて等級5までが制定されました。省エネ基準は、長期優良住宅や優遇制度の住宅性能評価の指標となっています。
2022年には住宅性能表示制度に断熱性能等級5~7が新設、同年に長期優良住宅に求められる断熱性能が等級4から等級5に引き上げられ、既に2025年の義務化水準よりも上の性能が標準的なものとなりつつあります。
*UA値とは
建物の外皮の断熱性能を表す値です。数値が小さいほど断熱性能が高いことを表します。2012年までは、床面積を基準にしたQ値が用いられていました。上記の図は、省エネ地域区分6の基準値で作成しています。
*BEI値とは
建物のエネルギー消費性能を表す値です。国が定めた設計水準を1.0として、数値が小さいほどエネルギー効率が高いことを表します。例えばBEI値0.9は、国が定めた水準よりも10%エネルギー効率が高いということになります。
建物の省エネ基準のこれから
2025年4月、国土交通省の社会資本整備審議会建築分科会は、2030年度に住宅性能表示を変更する案を示しました。断熱性能においては、現在の等級5を等級1に、一次エネルギー消費性能においては、等級7・8を新設し、現在の等級6を等級1に変更する案となっています。
さらに、2025年5月、経済産業省の省エネルギー小委員会にて、2027年度からZEHの性能要件を引き上げる新ZEH基準案が示されました。この案は2025年2月に「GX2040ビジョン」が閣議決定されたことを背景としています。
エネルギー改革であるグリーントランスフォーメーション(GX)の一環として、建築物においても省エネ性能の見直しが進んできています。
まとめ
・建物の省エネ基準には、外皮の断熱性能とエネルギー消費性能の2つがある。
・エネルギー改革「GX」の一環として、建築物の省エネ性能の見直しが進んでいる。
・2030年の建物の省エネ基準は、2025年の義務化水準よりも引き上げられる案が示された。
・ロングライフ・ラボが推奨する真の省エネ住宅基準(UA値0.46以下)が、当たり前の性能になりつつあるが、もう一つの指標である気密性能の制度化の見込みは立っていない。